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  • 執筆者の写真原田和典

「越前谷直樹」主催の大好評「北海道フェス」が3回目の開催。「WHY@DOLL」「下川みくに」等が登場し、なまらあずましい雰囲気で楽しませた

更新日:2019年9月17日

 作曲家・シンガーソングライターの越前谷直樹が主宰する「第3回北海道フェス」が9月13日、東京・下北沢「ろくでもない夜」で開催された。越前谷は、札幌から車で3時間ほどの距離にある寿都(すっつ)町出身。昨年まで続けていたグループを休止し、今年から作曲の仕事を中心に活動している。音楽業界に足を踏み入れた10代の時から考えていた「地元の魅力を全国に伝えたい」という思いを胸に、念願かなって今年2月に「第1回北海道フェス」を開催。6月開催の第2回を経て、今回、第3回目を迎えた。




 オープニング・アクトは“松山千春”。越前谷のギター・ソロ弾き語りで「長い夜」「恋」などが、あのレジェンドを彷彿とさせる声と節回しで披露され、この時点で場内の北海道度数は急上昇していたに違いない。熱唱する越前谷の向こうにラワンブキ(3メートルぐらいまで伸びる日本最大のフキで、松山の故郷である足寄町で栽培される)の畑が見えたのは自分だけではないはずだ。メインの一発目に登場したのはシンガーソングライターの熊倉泰志(札幌市出身)。9カ月前に上京したばかりだという。アコースティック・ギターとパーカッション(カホンやウィンドチャイム)をバックにしたシンプルな編成で、ソウル・ミュージックへの深い愛情を感じさせるナンバーの数々をじっくり聴かせた。地声とファルセットの境目が限りなく滑らかなのも、大きな魅力のひとつだろう。



 湯口翔平(札幌市出身)がヴォーカルを担当するGET BILL MONKEYSも、ファンキーでソウルフルな実力派集団だ。いきなりミュージカル風というかシアトリカルな展開で観客を引き込み、あとはひたすらグルーヴの渦。途中からバスドラのマイクもオンになり、それが5弦ベースの響きと合体、ズドンズドンとはらわたを直撃する。12月7日に東京・代官山LOOPで開催されるワンマンライブがさらに楽しみになった。


 11月23日の東京・浅草花劇場におけるワンマンをもって活動を終了するWHY@DOLL(青木千春、浦谷はるな、ともに札幌市出身)は、第2回に続いての登場。「Show Me Your Smile」、「Dreamin' Night」、「ラブ・ストーリーは週末に」、「shu-shu-star」、「Tokyo Dancing」、「ケ・セラ・セラ」を聴かせた。MCでは“私たちの活動は残りわずかですが、作品は残ります。末永く聴いていただければ”といったことも語られたが、このパフォーマンスがあと70数日で見られなくなるということが、個人的にはいまだに信じられない。




 WHY@DOLLが残したあずましい空気の余韻が残る中、飛び切り刺激的な男がステージに登場した。帯広市出身のRYO TAKAKURA。漫才コンビ“三拍子”の、高倉陵の音楽活動名だ。目がぱっちりして背が高く、見た感じはどう考えても二枚目なのに、歌としゃべりの両方で笑いに笑わせる。詩人としての特異な才能が超キャッチーなメロディに乗せてほとばしる「尋常」、サビの歌詞が長すぎて小節内に収まさるか聴いていてハラハラする「誰もが俺達のこの鼓動止める事は出来ないのさ」(“高倉陵”と“キャバクラ嬢”の韻の踏み方も絶品)。“アンコール”(オーディエンスに強制させる)はビキニの水着に着替えて「BEACH QUEEN」。強い爪痕を残した……いや、全身を笑いという爪でかっちゃかれた感じだ。


 次は“北海道フェスの女王”というべき下川みくに(静内町出身)のセットだ。アニソン、声優の分野での第一人者だが、年季の入ったアイドル・ファンには伝説的グループ“チェキッ娘”での活躍も印象深かったはずだ。この日は越前谷のキーボードだけをサポートに迎えた、デュオによるステージ。「夏花火」の歌詞のどこにも北海道というフレーズは出てこないが、誰もがあそこの短い夏(海水浴できる期間は2週間ぐらいしかない)を思い出したに違いない。越前谷の鍵盤さばきも実に歯切れよく、とくに左手の動きには魅せられた。バイオグラフィを見ると6歳の頃から長くエレクトーンを演奏してきたとのこと。なるほど、よく弾かさっているわけだ。「Remember」では観客からの大合唱が起きた。



 一度はけた越前谷直樹が、今度は全員北海道出身者でまとめた自身のバンドを率いてフロントに立つ。今年に入ってから出した自主制作CD『3』からのナンバー「向き合うこと」は、彼の今後の決意表明であると共に、いいふりこきやはんかくさい連中に呼びかけるメッセージにも感じられた。そしてラストではギターやキーボードから手を放し、自ら舞台の前に立って、このフェスのテーマソングであるダンサブルな自作「NAMARA WELLCOME HOKKAIDO」(これもCD『3』に収録)をパラパラ風のダンスを交えつつ歌った。


 熱狂の中、越前谷の呼びかけで出演者が再登場。ジャンケンで勝ったオーディエンスにホッケとイクラが発送される抽選会の後、オーラスは松山千春・作「大空と大地の中で」を全員で。男性シンガーたちはどうしても松山千春のモノマネ状態になってしまうが、それもまた北海道のグルーヴといえなくもない。“凍えた両手に息を吹きかけて しばれた体をあたためて”という歌詞に、会場にいる道産子の誰もが、あと数か月で故郷に間違いなくやってくる、しっかり手袋をはかないとえらいことになる厳しい冬(初雪のあと、根雪が半年間続く)を予感して身を引き締めたことだろう。


 次回の北海道フェスはやはり「ろくでもない夜」を舞台に、12月26日(木曜)に開催される。「3カ月に一度のペースで継続していきたい。アーティストやお客さんとの繋がりを一つ一つ大切に、焦らずじっくりと、北海道人らしく、北海道フェスを開拓していけたら。行く末は、デパートの北海道展やフェアとコラボしたり、松山千春さんや、GLAYさん、北海道出身の憧れのアーティストの皆様と北海道フェスを一緒にやりたい」と、越前谷の気迫は熱い。WHY@DOLLは今回が最後の参加になってしまったが、グループとしての活動は終了しても、とうきびやザンギの販売コーナーにいるとか、豚丼用の米をうるかすとか、なんかかんか今後もこのフェスに顔を出してほしいものだ。





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