不思議なほど“終わり感”や“ページ閉じられ感”を覚えない爽快なコンサートだった。曲が進むうちに悲しみよりも澄み切った晴れやかな風景がどんどん心の中に拡がった。火曜日の渋谷Gladに足を運べば定期ライヴをアットホームに繰り広げているような気がするし、木曜日に池袋の新星堂サンシャインシティアルタ店に立ち寄ったら“永久店長”としても笑顔を見せているに違いない。水曜の夜にショウルームをつければ、これからも普通に生放送が何事もなく流れてくるような予感だってする。
ひょっとしてまさかと思い、ホームページのスケジュール欄を確認してみたが、11月24日を最後に、カレンダーは空白のまま。何度見てもだ。本当に活動が終わってしまったのだなと目や頭では理解できても、心が追いつかない。ただ、最高のコンディションとコンビネーションを保ったままピリオドを打ったのは本当にかっこいい、さすがだと思う。
7月に活動終了宣言を行った青木千春と浦谷はるなのヴォーカル・デュオWHY@DOLLが11月23日と24日に東京・浅草花劇場にてライヴツアー「WHY@DOLLラストライブツアー~We are always here for you~」のファイナル公演を開催した。
23日は“B@NDOLL”(バンドール)のバンド伴奏、24日はオケ伴奏による、それぞれ2回公演。B@NDOLLのメンバーは大久達朗(バンマス、ギター。この日のためにスケルトン状の楽器を自作したという)、鳴海克泰(ベース)、大菊勉(ドラムス)、鳴海碧(キーボード ex松浦碧)、越川和磨(ギター)、エトウヒロノリ(トロンボーン)、PITARI(トランペット)、石井裕太(サックス、フルート)。管楽器3本のゴージャスな響き、その音圧に押されることなく堂々と歌いこなせるのもWHY@DOLLの強みだ。セットリストは以下の通り。
<11月23日 BAND LIVE 15時開演の部>
01 Show Me Your Smile
02 Ringing Bells
03 ラブ・ストーリーは週末に
04 夜を泳いで
05 曖昧MOON
06 Tactics
07 忘れないで(浦谷ソロ)
08 Foerver(青木ソロ)
09 Sweet Vinegar
10 シグナル
11 Dreamin' Night
12 セツナSHOOTING STAR
13 shu-shu-star
14 秒速Party Night
15 あなただけ今晩は
16 ベクトル
17 菫アイオライト
18 Magic Motion No.5
<アンコール>
19 ふたりで生きてゆければ
20 恋なのかな?
<11月23日 BAND LIVE 19時開演の部>
Celebration ※クール&ザ・ギャングのカヴァー(バンド演奏)
01 TOKYO Dancing
02 キミはSteady
03 Mr.boyfriend
04 菫アイオライト
05 Ringing Bells
06 GAME
07 初恋☆キラーチューン
08 サンライズ!~君がくれた希望~
09 2月のエピローグ
10 Sweet Vinegar
11 Dancin' For Broken Hearts(ゲスト;日高央)
12 トラベリンバンド(ゲスト;日高央)
13 バニラシェイク
14 clover
15 Show Me Your Smile
16 CANDY LOVE
17 ケ・セラ・セラ
18 恋なのかな?
<アンコール>
19 NAMARA!(バンド演奏)~Blue Summer
20 Magic Motion No.5
ぼくは夜の部を拝見したが、オープニングからB@NDOLLの笑顔は全開。青木のイメージカラーの青、浦谷のイメージカラーの黄色にちなんだ色づかいのネクタイで統一し、腕前も冴えに冴えて、「このラスト・ライヴを史上最高のものにしたい」という意欲のかたまりがいきなり高速で飛んでくるような錯覚に陥った。音響もよく、鳴海のベースと大菊のバスドラのシンクロ具合も実に快く聴きとれる。バンドがクール&ザ・ギャングの「セレブレイション」を演奏しきると、もう場内には、外の寒さと雨模様からは考えつかないほどの熱気が充満。さあ、いよいよここからは“スター・タイム”、WHY@DOLLの登場だ。
“最後まで成長し続けること”を活動終了宣言後の大きな目標にしてきたふたりは、「TOKYO Dancing」でいつにも増して繊細なハモリを聴かせ、その言葉が嘘ではなかったことを証明する。石井のフルートがさわやかな風を運び、大菊は「キミはSteady」で絶品のドラム・ブレイクを聴かせる。この曲に限らず全体的にCDヴァージョンよりもテンポが120%増という印象を受けたが(自分の錯覚かもしれない)、少しも上滑りせず、スピード感のある演奏とスピード感のある歌が一体となって、ようするにとんでもなく気持ちいい。
2016年からバンド編成によるライヴに取り組んで3年、ここまで“生声+ハモリ+生演奏”をレベルアップさせるとは。一時4ビートにアレンジし直されていた「Ringing Bells」も、この日はCDヴァージョンに近いアレンジに。こうしたメロウな曲調、横に流れる和声には、チンチキしたシンバル・レガートよりも、スウィート・ソウル風のグルーヴが合う。「GAME」で鳴り響いたオルガンの音圧も、コリー・ヘンリーを彷彿とさせる迫力である。
それまで聴き入りつつもノッていた観客が一転、雄たけびのようなコールや合いの手でWHY@DOLLの熱唱に応えたのが「初恋☆キラーチューン」、「サンライズ!~君がくれた希望~」の2曲。いずれも札幌時代のナンバーで、歌詞も少女の覇気を感じさせる。「サンライズ!」に出てくるセリフが、またいい。2020年代のアイドル・ポップスはもっとセリフを重用してもいいのではないか。
続くアコースティック・コーナーでは、歳月を経て、淑女への道を歩むWHY@DOLLの姿がクローズアップされた。2アコースティック・ギターだけを従えて歌った「Sweet Vinegar」を、この日の最も印象的なトラックに挙げるリスナーも多いと確信する。
スペシャルゲストとして日高央(THE STARBEMS、元BEAT CRUSADERS)が登場したのも、場を盛り上げた。彼はWHY@DOLLに「Dancin' For Broken Hearts」を提供しているが、この日はまず日高が英語で1コーラス弾き語り、その後、WHY@DOLLの日本語歌唱へとつなげる特別なアレンジ。日高、大久、越川のトリプル・ギターが聴けた「トラベリンバンド」の間奏では、WHY@DOLLがサイン入りボールを次々と客席に投げ入れた。浦谷による「CANDY LOVE」恒例のコール&レスポンス(そのつど変わる)は、“B@NDOLL、ほわどる、ライヴ、最強!”。ステ―ジに立った誰にもいっぺんの悔いもない、そんなさわやかさを放つ、超絶的なステージだった。
(※11月24日の模様は、中・後編に続く)
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